AD can システム開発と骨材間隙率計算方程式

ここでのキーポイント
○アスコン品質は骨材間隙率(VMA)で決まる
○アスコン空隙には連続空隙と独立空隙がある
○独立空隙の存在がアスコン品質を難しくしている
○アスコン骨材の骨格構造形成が安全配合の条件
○(VMA > As量+独立空隙)が安全配合の条件
○VMAは骨材間隙率計算方程式で計算できる
○アスコン配合設計は計算(パソコン)でできる

1.骨材間隙率計算方程式

(1)骨材間隙率計算方程式への発想

中央高速道路府中舗装工事(以下,中央道工事)が「長期供用性良好な舗装」として,日本道路公団総裁から感謝状が贈られたことを前項で述べた。この事実から,この舗装工事には,舗装技術の基本的な技術課題が内在していると考えた。関連資料などを参考に,時間経過とともに行き着くところが次第に見えてきた。ここでこの思考の流れを若干述べてみたい。
舗装体を構成する骨材(砕石、砂など)が形成する合成骨材には大なり小なりの骨材間隙率(以下,VMA:Voids in Mineral Aggregates)が存在することは既知の事実である。この大きさは粒度(容積粒度)によって定まった値があるものと考えるが,その大きさが問題なのである。
また,昔からマカダム工法というものがあった.これは舗装体の強弱は舗装体を構成する骨材の噛み合わせによる骨格構造(Skeleton)の形成にあることだ,アスコンにおいてもこの原則は変わるものではないと考えた。
この骨格構造の形成を考えるとき、アスコンではバイダーとしてアスファルト(以下、Asとする)を混合する。そこで,VMAよりAs量(容積)が大きいと,VMAの中にAs量(容積)が入り切れず全体の体積が膨張してしまう。結果として,骨格構造が形成がゆるむことになるのも当然解っていた。
このように考えてくると,VMAの大きさが解れば,最適なAs量も解るのだが,しかし,締固めた供試体から求めたVMAは,締固めの程度によって変化するので,結局、VMAの大きさは解らないということになるのである.ここでどうしても,VMAの大きさを知る必要があり,それも最小となるVMAなのである
暗中模索しながら時間経過があり,合成骨材の粒度(容積粒度)からVMAが計算で求められないだろうかとの考え方に行き着くのである。最後はこの考え方で「骨材間隙率計算方程式」(以下,計算方程式)の誘導ができたのである.これを,土木学会において発表した。

「骨材粒度に基づく加熱アスファルト混合物の骨材間隙率推定法に関する研究」土木学会論文集,No.648/V-47,pp191-202,2000.5.

(2)骨材間隙率計算方程式の誘導

「計算方程式」の理論展開は少々難しく,また,紙面の都合もあり詳細を述べることは割愛します。述べても数式の羅列であまり意味がないと思いますので,ご了承下さい。
ただ,基本的事項だけを若干付け加えておきます。
計算方程式の誘導は,基礎実験として球形のセラミックボール(粒径の異なる8種類)を準備し,それら粒径の異なる2種および3種混合を繰り返し行い,それらからVMAを求めて規則性を見出し,1つの実験式を作成した.その先は純粋に数学(対数,数学的帰納法,積分など)の問題として解析したものである.非常に難解な数学の問題であった.その解析には6年の歳月を要した。
しかし,その「誘導の理論」とか「計算方程式」は,現実には「絵に描いた餅」のようなもので食べることはできません.それを食べられるようにしたものがプログラム化であります。
以下,計算方程式とその諸元および方程式を組み込んでプログラム化した「VMA計算シート」(Excel Sheet)を示します。

(3)VMA計算シートの計算方法

上記にVMA計算シートを示したが,このシートにより設計された配合の合成粒度から,その配合のVMAが計算できる.計算方法は次のとおりである.

① 左側から1列目は粒径のフルイ目サイズである.
② 左側から2列目が粒度です.(今の粒度は「密粒度アスコン(13)」の例です.)
③ 中央全体の各セルには「計算方程式」が組み込まれ計算数値が表示されている.
④ 右側上段に計算VMA 16.2%(丸印)の計算結果が表示されている

ここで計算されたVMAは,As量が混合されていないので締固めは必要なく,その合成粒度の最小VMAである。

2.アスコン供試体締固め空隙率と計算空隙率

(1)アスコンの空隙率,骨材間隙率,連続空隙と独立空隙率についての確認(復習)
アスコンの空隙率(Air Voids)はアスコン供試体の外見上の容積に占める空気量の割合を容積率(%)で表わしたものである.通常,締固められたアスコン供試体の密度をm(g/cm3)とし,その理論密度をd(g/cm3)とすると,空隙率a(%)は下記の式1)によって求められる。
a = (1-md )×100  ——–  1)

次に,アスコンからAsを除いた骨材が形成する合成粒度の間隙の中身は空気である.配合した骨材の外見上の容積に対する空気量の割合を容積率(%)で表わしたものが,骨材間隙率:VMA(Voids in Mineral Aggregates)であることは既に述べたとおりである。また,アスコン中の空隙には「連続空隙」と「独立空隙」の2種類がある。連続空隙は外気と繋がって連続している空隙である.排水性舗装に用いられるポーラスアスコンの空隙は大部分が連続空隙のため水を透過させ排水性舗装ができるのである。一方,独立空隙は外部と繋がっていない独立した空隙である。(下記に示す)

(2)SGC締固め空隙率と計算空隙率

前段のⅡ:アスコン供試体締固め と 空隙率および骨材間隙率VMAの項において,アスコン供試体を作製して締固め実験を行った実験例を述べた。
通常,アスコン供試体の締固めは「マーシャルランマ(MR:Marshall Rammer)」
(以下,MR締固め)で行うが,MR締固めは不十分な締固めとされ,その検証も併せて「ジャイレトリコンパクタ(SGC:SHRP Gyratory Compactor )」締固め(以下,SGC締固め)も行い比較検討したデータである.そのデータ類は一覧表(未掲載)に整理されている。
また,SGC締固めは交通転圧を考慮した締固めで非常に強力なものである.このSGCを用いてアスコン供試体を締固めたデータも一覧表(未掲載)に整理されているので,それをここで採用する。
一方,SGC締固めで用いた粒度配合( 骨材配合と合成粒度:前段で記載されている.) の合成粒度データを,前項で述べた「VMA計算シート」に入力し,計算空隙率を算出して一覧表に整理(未掲載)した。
上記,両者のデータを同一の一覧表に整理(未掲載)し,これらデータから作成したグラフがG2グラフである。

(3)SGC締固め空隙率と計算空隙率のグラフについて

SGC締固め空隙率と計算空隙率の関係グラフG2から、この両者には強い相関性が確認できる。ここで,このG2グラフの下段左側に丸囲いしたデータが存在していることが分かる。このデータは本来もう少し小さくなるべきものであるが,1%程度のところで止まってしまったと考えられる.これは,次に説明するが「独立空隙」による影響と考えられ,アスコンの品質を分かりにくくしている非常に厄介なものなのである。
この独立空隙の存在は,MR締固め空隙率とSGC締固め空隙率の関係からグラフを作成しても分からないが,計算空隙率の関係グラフから分かったものであることを付記しておく.ここで,アスコンの空隙率についてもう少し詳細に調査する。

 独立空隙はいかなる締固めを行っても排除することはできない.このため,アスコンの空隙率を0%にすることはできないということである。

 ここで見方を変えて考えてみる.アスコン内に排除することができない独立空隙が存在しているということは,結果として,As量(容積)が独立空隙量(容積)の分だけ増量したことに等しいとする考え方である

仮に,独立空隙量を1.5%と仮定する.密粒度アスコンにおいてAs量5.5%で設定したとすると,このアスコンの見掛けのAs量は独立空隙量1.5%を加算して,7.0%になったと考える訳です.これは密粒度アスコンとしては非常に多量のAs量と想定される.7.0%の見掛けのAs量が,VMA(すき間)の中に入りきれない骨材配合であると考えると,骨格構造が形成できず,確実にわだち掘れが生じるアスコンになると考えられる.このアスコンの有効なAs量は5.5%であるが,この考え方でこのアスコンは7.0%のAs量とみなした挙動を示すことになる

ここで,アスコンの独立空隙の存在について一つの事例を述べておく。
流動が発生しているAs舗装からコア採取した供試体の空隙率を測定すると,1~2%程度であり0%に近いものではない.これは独立空隙の存在を示唆しているといえる。
この独立空隙率の大きさは配合した骨材の粒度によって,定まった値があるものと想定されるが,ここではとりあえず1~2%程度と考えておくことにする。

3.空隙率によるアスコン配合設計

(1)SGC締固め空隙率と計算空隙率の確認
前項で示したSGC締固め空隙率と計算空隙率の関係を示したG2グラフには,独立空隙による影響と考えられる不確かなデータがあったので,それを削除して作成したグラフがG3グラフである。
G3グラフによると,SGC締固め空隙率と計算空隙率の相関係数は0.954と算出され,強い相関関係が認められる.これは,両者がほぼ1:1の対応を示しており,実験値と計算値がほぼ一致していると言っても過言ではない.このことは,アスコン配合設計が,試験供試体を作製せずに,「計算方程式」の計算で設計出来ることを意味するものである

 

(2)アスコンの流動現象(確認)
アスコン舗装の破壊は流動現象によるわだち掘れ破壊が多いことである。アスコンの流動現象はアスコンを構成している骨材の合成による噛み合わせで骨格構造が形成されていないことが原因である。アスコンや粒状砕石路盤でも同様であるが,舗装体の内部において,骨材の合成によって形成される骨格構造が交通荷重を支えている.舗装体の内部では砕石や砂の各粒子がお互いに接触しており,その接触力(摩擦力)が交通荷重を支えている。この摩擦力の大小が舗装体の強弱ということになる。
アスコン内の骨材の合成粒度を考えるとき,骨材の合成が形成する骨材間隙率が最も小さくなる場合をここでは「最終VMA(Final VMA)」と称することにする。この最終VMAよりAs量が占める容積(独立空隙を含めた全容積)が大きくなると,間隙(すき間)に入り切れなくなるので,全体の体積が膨張してしまう.その結果,骨材間の接触力が弱くなり,摩擦力も低下するため粒子間にズレが生じ,交通荷重を支えきれなくなって流動現象が起きるのである。

(3)提案するアスコン配合の設計条件
今まで述べてきた事項をまとめ,今後進める前提条件として,次の2項目を再確認しておく。

アスコンの中にはいかなる締固めを行っても排除できない独立空隙が存在し,アスコンの種類にもよるが,通常12%程度と想定されている.ここでこれを安全側に2%と定め(G3グラフ参照),それを「限界空隙率(Final Voids)」と称することにしたこと

アスコンのVMAにも最小となるVMAが存在し,ここでは,「最終VMAFinal VMA)」と称する.この「最終VMA」は「計算方程式」で算出できること

以上,2点を整理すると,独立空隙の大きさが定かでないものを,ここでは,安全側に「限界空隙率2.0%」と定めたこと.また,「最終VMA」は「計算方程式」で算出できることである。

提案するアスコンの安全配合の条件は,「As量(Asとする)」と「限界空隙率(Final Voids)2.0%(FV2.0とする)」を加算した容積が、「最終VMA(Final VMA)(FVMAとする)」の中に収容できることが必要かつ十分条件となる.尚,「(FVMA-As)は計算空隙率(Calculate Voids)であり(CVとする)」.これら条件を整理すると式(1)~(3)および式(4)となる。

FVMA  >  As  + FV2.0    —–  (1)
FVMA  ―  As  > FV2.0    —–  (2)
FVMA  ―  As  = CV      —–  (3)
∴   CV    >  FV2.0      —–  (4)

上記,式(4)は計算空隙率(CV)が2.0%以上であれば安全配合となる条件である。
条件式の中で,限界空隙率2.0%とAs量(容積)は既知の数値として解かっている。しかし,FVMAは解らなかった.これを「計算方程式」から計算できることで解決したのである。
ここで,この計算方程式から算出した計算値を,過去の実験を空隙率の観点から見直し,整合性を確認し(G3グラフ参照),アスコン試験供試体を作製せずに,計算で(パソコンで)アスコン配合設計ができることになるのである。

4.提案するアスコン配合設計のまとめ

アスコンの流動対策は古くからの課題であった。流動現象を起こさないためには,アスコンの骨材がマカダム工法のような噛み合わせによる骨格構造の形成が不可欠であり,このことはすでに解っていた.また,骨材の合成粒度による骨材間隙率(VMA)よりAs量(容積)が大きいと,骨格構造が形成できないこともすでに解っていた。
ここで,焦点を当てて検討してきたのがアスコンに内在する空隙だった。空隙には連続空隙と独立空隙があるが,問題なのは排除できない独立空隙だったのである。この独立空隙が内在していることは,As量の大きさが独立空隙を含めたAs量(容積)として,アスコンが挙動するからである。ここで,この独立空隙を含めたAs量を骨材間隙の中に収容できれば,このアスコンの合成骨材は理想的な骨格構造が形成でき流動現象は発生しないのである。
骨材の合成粒度による最小間隙であるFVMAが解れば,上記述べてきた関係が総て解決できるのである。そこで,この「FVMA」を「計算方程式」で算出できることを改めて提起したのである。そして,この計算方程式が正しく計算していることもアスコン締固め試験で再確認した。
 今後の発展性として,ここに示した「計算方程式」を組み込んだアスコン配合設計システムの開発へと発展させたく,現在,作成を進めており,ほぼ完成に近づいているところである。
 上記で述べた「VMA計算シート」をパソコンに組み込み,必要な諸機能を追加して作成した「アスコン配合設計システム」が「AD canシステム」であります

追記:ジャイレトリコンパクタについて

アスコン供試体の締固め効果の比較検討に,MR締固めとSGC締固めの両者の締固め効果を比較検討した報文が当時から多数発表されていた。わが国ではSHRPの発表と同時に、SHRPが提起したSGCを官民共の各試験室や研究所に導入し,その効果を検証した.締固め効果はMR締固めとは比較にならないほど強力なものであることは確認した。
ところが,SGCで最大の締固めを行っても独立空隙(後日判明する事実)に関連する空隙率が最後まで残り,供試体の空隙率が0%に近いものにはならなかったのである。このことから,官民の技術者たちが共々に締固め効果に疑問を抱く結果になってしまったのです。このようなことも含め,器具そのものも高価であったこと,また,特許関係も絡んでおり,わが国でのSGCの普及の阻害要因になったものと思われます。誠に残念であったと思います。(各社の試験室の片隅にSGCが眠っていると思います.)
後日それらの詳細が判明するのですが,大きさが定かでない残留空隙率(推定:1~2%程度)が最大の締固めを行っても0%にはならず,その空隙は「独立空隙」の存在だったのです。ここで,独立空隙が存在することを前提にすれば,供試体を締固めてその空隙率が2%超過(安全側に考えて)であれば最大締固め状態であると判断できることになるのです。しかし,その前提条件が事前には解らなかったこと,また,これを考慮しなかったため締固め効果に疑問が残る結果となってしまったのでした。
繰り返しになりますが,アスコン配合において,SGC締固め空隙率が2.0%を超過していれば安全配合なのです(2.5%程度であればさらに安全です.)。そのときの空隙率はそのときの配合の最大締固めで,最小空隙率であることを繰り返し述べて,この配合は安全配合なのであります。
また反面,空隙率が仮に2%未満であったとすると,これは問題です.何故か,本来この空隙率はもう少し小さくなるべきものが、独立空隙の影響で2%未満程度のところで止まってしまったと解釈する訳です。これは「わだち掘れ配合」の危険性が内在する可能性があるのです。